北信小谷村 奉納山(1510.9m) 2016年3月5日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 6:41 県道−−8:56 標高1250mで小休止 9:02−−10:17 奉納山 11:14−−11:55 県道

場所長野県北安曇郡小谷村
年月日2016年3月5日 日帰り
天候晴後薄曇
山行種類雪山
交通手段マイカー
駐車場押立沢を渡る橋付近に除雪された駐車スペースあり
登山道の有無無し
籔の有無今の時期は雪に埋もれて無しだが、雪が溶けて地面が見えた場所から想像すると結構な高さまで笹は無いか薄いように見えた
危険個所の有無全体的に急な尾根の連続で雪が締まった時期は滑落注意
山頂の展望薄いブナ林ですっきりではないが展望あり
GPSトラックログ
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コメント押立沢左岸尾根を往復。地形図で読めるような急傾斜の尾根の連続と残雪期には早い時期で北向き尾根では柔雪、しばらくまともな山をやっていなくて体力的に厳しかった。当日は気温がかなり高かったことも雪質悪化の要因。でも奉納山に最短距離で登れるルートで利用価値は高い。尾根が急すぎて数か所で雪庇状の段差があり、足元が定まらなくて乗り越えるのに苦労した。雪質が悪くてつぼ足だと踏み抜き連発のため上り下りともスノーシュー装着したままだったが、あの傾斜では一般的には下りでスノーシューを使うのは無謀だろう。山頂は目の前に堂津岳が連なり左側奥には焼山、火打山が見える




これから登る尾根。かなり立っている 除雪された駐車余地
尾根末端は法面+フェンス 押立沢
押立沢左岸尾根に取り付く 最初は植林帯。まだ積雪は少ない
標高920m付近で植林帯終了 標高1000m付近。いよいよ急登開始
カモシカの足跡 振り返れば雨飾山
標高1120m付近。急登の真っ最中 ここにもカモシカの足跡
カモシカの足跡は急斜面を横断して東へ 標高1230m付近
標高1250m付近で小休止 振り返ると自分のトレースが続く
標高1300m付近。まだ雪は少ないようだ 標高1300m付近
標高1320m付近。まだ急登 熊棚
1365m標高点手前も急登で苦労 振り返る
1365m標高点で傾斜が緩む 1365m標高点より先の傾斜が緩い区間は熊棚多し
熊棚 標高1400m付近
北側の展望 火打山をズーム
こちらは雨飾山 標高1440m付近。最後の急登
奉納温泉方面から延びる尾根に乗った。山頂は近い 山頂付近には2つの岩あり
この岩は南側に突き出して展望良好 奉納温泉へ続く尾根
岩の上から見た堂津岳の稜線
岩の上から見た東山付近 岩の上から見た岩戸山と白馬市街地方面
岩の上から見た後立山方面。霞んでしまって白馬岳などは見えなかった。残念
奉納山山頂
奉納山山頂の360度展望写真。薄いブナ林であまり展望は良くない(クリックで拡大)
帰りの踏み抜き穴 1365m標高点より急な尾根を下る
往路の休憩場所 標高1060m付近。まだまだ傾斜は緩まない
標高1000m付近 標高930m付近。植林帯に変わる
ゴールは間近 県道到着


 小谷村には未踏の山がいくつかあるが、標高が高いところは藪が深いと予想され、雪がある時期に登るのがいい。そんな山の一つが奉納山(ぶのうやま)。奉納温泉の北東側に位置し、堂津岳を主峰とする南北に伸びる山脈の西側に位置する。ネットで調べると登山者は少なく、いくつか山スキーの記録があるだけで登山と言えるのはDJF氏の記録くらいだろう。氏は奉納温泉を起点に時計回りに周回し、奉納山、柳沢山、堂津岳とまとめて登っている。時期は残雪期も終わりに近い(終わっている?)5月下旬だ。

 ちなみに行き先がすんなりと奉納山に決まったわけではない。もう一つの候補地として大渚山西側の真那板山、跡杉山、沓形山を頭に描いていた。こちらはまとめて3山登れるので効率的だが、奉納山と比較して標高差もあるし行程も長い。雪の状態が良好と予想できるならまだしも、この時期のこの気象条件で現在の体力ではおそらく途中で力尽きると判断して諦めたのだった。そうしたら私が奉納山に登っている真っ最中にDJF氏がまさにこの3山を山スキーで巡ったのを下山後に知った。計画段階だがニアミスだった。

 今回のルートであるが、さまざまな条件が悪く選択に悩んだ。まず時期が早すぎて雪の締まりが期待できないこと。さらに悪いのが低気圧の接近で暖気が入って気温が上昇し、さらに雪の状態が悪化することが予想された。それに最近はまともな山に登っておらず、山に行く頻度も半減して体力的に厳しそうだ。

 悩んだ末に最短距離で登れる押立沢左岸尾根を往復することにした。この尾根は傾斜が急で緩んだ雪の状態で上り下りするのは苦労が予想されるが、奉納温泉から尾根伝いに往復するのと比較すれば距離は1/3程度だろう。ただし、北向きの尾根なので雪の締まりはさらに悪いと予想できた。しかし奉納温泉から往復する場合、南向きの尾根なので日差しがあって気温が上昇すると踏み抜き連発の可能性はかなり高い。その状態で長距離を歩くのもかなりきつかろう。ならば短距離勝負の方が登頂成功の確率は高いと踏んだ。

 ただし、今シーズン初めての本格的な雪山でトレース無しの急な尾根の上り下りに体が対応できるか心配だ。ラッセルで体力を搾り取られる上に急傾斜だ。おそらく階段状の雪庇が登場し、登りでは足元の雪が崩れて這い上がるのに苦労しそうだ。下手をすると下りでもスノーシューを装着しないとラッセルが厳しいかもしれない。そんなわけで今シーズン初めてスノーシューにピッケル、12本爪アイゼンとフル装備で挑むことにした。尾根取付から山頂までの標高差は約750m。もし登山道があれば2時間弱で山頂に達することができるが、雪の状態を考えるとどれくらい時間がかかるやら予想が困難だ。

 長野市から小谷村まで100km程度で東京と比較すれば格段に近い。通称「オリンピック道路」で白馬へ至り、国道148号線を北上、トンネルとトンネルの切れ間にある小谷温泉の案内で右に曲がり、県道114号線を北東へと向かう。スノーシェッドを出て押立沢を渡る橋の手前に除雪された駐車スペースがあり、そこで仮眠した。満天の星空だが気温は高めでさほど寒くはなかった。道路脇の除雪で削られた雪面の高さは1m弱で予想よりも雪は少ない。

 翌朝、朝の気温が低い時間帯に距離を稼ぐべく夜明け前に起床したが、何だかんだで出発は6時半近くになってしまった。道路脇から見上げる尾根はえらい急な角度で立ち上がっている。こりゃ想定どおり苦労しそうだ。落葉樹に覆われているので滑落の恐怖心はそれほど感じずに済みそうだ。

 尾根末端は法面とフェンスで取付不能なので、押立沢沿いに少し進んでフェンスが切れた場所から尾根に取り付く。当然ながらトレースは無し。最初から急登だ。予想通り雪は締まりがなく最初からスノーシューを装着した。昨年4月に左足側が破損して修理から戻ったらビンディングのバンド固定の向きが右足用に変わっていたので、私のスノーシューは両側とも右足用のようだ。これでも実用上は問題ない。

 スノーシューの威力は絶大で踏み抜きは無くなり数cm沈むだけになった。踵を上げるヒールリフタを立てて対応。やっぱりこれはいい機能だ。最初だけ開けた明るい尾根だがすぐに杉の植林帯に突入。幸い、このエリアではまだ花粉は飛び始めていないようで、雪面に落ちている花芽は硬く閉じていた。そもそも、この付近の杉は花芽が少ないように見える。

 植林帯が続く間はまだ傾斜はそこそこで登り易いが、久しぶりの本格的雪山で心肺機能が追いつかず歩幅を狭めてペースを緩めて登っていく。積雪量は尾根下部では50cmも無いようで、幹の周りの雪解けして見えている地面には笹はなかった。このエリアだとかなり上までひどい笹は無いのかもしれない。

 植林帯が終わって落葉樹林帯に変わると尾根の傾斜がきつくなり、いよいよ核心部に突入だ。ただし尾根の幅はそれほ狭くはないし樹林が続くので滑落の恐怖感は無い。何よりも雪が柔らかくてスノーシューでも常時10cmくらい潜るような状態なので、滑落のしようがないのが現状だった。やはり予想通り雪質は悪い。気温の上昇によるものよりも、北向きで日当たりが悪いのが主要因のように思えた。奉納温泉側から登ったらどうだったのかなぁと気になるところだ。

 標高が1000mを越えると部分的にかなりの急傾斜が登場し、小規模な雪庇が階段状に尾根を横断する場面があり超えるのに苦労した。雪はスカスカでスノーシューを蹴り込んでも崩れるだけで足元が決まらず、ピッケルで支えるにもシャフトいっぱいまで簡単に刺さってしまうような雪なのでピッケルに力をかければ雪が持たない。しょうがないので思い切りガニマタでスノーシューを横向きにして広い面積に体重を分散させ、ピッケルだけでなくもう片方の手も使って体重を分散して足元の崩壊を最小限にしてどうにか切りぬけた。こんな場面が数個所あったが雪が締まった時期ならもっと簡単に切りぬけられただろう。というか、そんな時期ならこの段差は溶けてもっと滑らかな雪面に変わっていると思う。

 時々カモシカのトレースが現れるが、まだ時期が早すぎるようでカモシカの足跡に足を合わせても潜る量に大差はなかった。カモシカはとんでもない斜面をトラバースしていたが、こちらは山頂が目的なので上を目指し続ける。

 私の通常体力ならこの程度の山なら休憩無しで山頂まで到達可能だが、今の体力ではきつく久しぶりの重い負荷に左足の大腿四頭筋が悲鳴を上げている。このまま歩きつづけると痙攣しそうなので標高1240m付近で小休止。スノーシューが無かったらもっと時間がかかって体力も消耗しただろう。それくらい雪質は残雪期とは言えない状況だった。北斜面なので最初からこの状況は想定していたが、やっぱり締まった雪が恋しい。

 休憩を終えて再び急な尾根に取り付いてゆっくりとしたペースで登り続ける。標高1365m標高点まで達すれば急傾斜から脱出できるので一区切りだが、その標高点手前も雪庇のなりそこないの段差があって這い上がるのに苦労した。

 1365m標高点を越えるとようやく傾斜が緩んで小規模な雪庇ができた尾根歩きに変わる。雪質は多少良くなって潜る深さは2,3cm程度に浅くなった。雪庇ができる場所は樹林が少ないので展望が開け、振り返れば雨飾山や天狗原山、その右には真っ白な火打山。まだ笹が峰への車道は開通していないだろうから、火打に登っているスキーヤーはいないかな。周囲のブナには熊棚が目立つようになったが、まだ冬眠の時期なので熊の足跡は見かけなかった。

 山頂までもう少しの位置、奉納温泉へ続く尾根に合流する直下も傾斜がきつく苦労したがやっと合流。ここまで目印等は皆無だったがここから山頂までも目印は見当たらなかった。

 山頂へは東へと緩やかに高度を上げていく。最後の急な尾根付近はダケカンバが目立ったが主稜線では再びブナが優勢に変わる。そして東西に長い山頂部南側直下と山頂の西側にはなぜか杉が生えていた。植林ではなく鳥が種を運んできたものか。山頂部の西側と南側には岩があり、特に南に突き出た岩が一番標高が高いようにも見えるので登っておく。八ヶ岳の大同心を小振りにしたような岩であり、先端まで容易に登れた。南側は切れ落ちて東〜南〜西は展望良好。東には堂津岳、南は霞んで遠くは見えず、西側の後立山は雲がかかっている。天気は下り坂だからなぁ。奉納温泉へと続く長い尾根が見えるが、あちらから登った方が楽だったのかどうか・・・。

 地形図上の山頂は東端なのでそちらに移動して休憩。人工物は一切見当たらなかった。積雪量は思ったより多くはなさそうで2mに達していないと思われたが、三角点を掘り起こすには不可能な程度の積雪はあるので三角点を目にすることはできない。若干雲が増えてきたが風は弱く体感的には暖かくて気持ちよかった。スノーシューを脱いで歩き回ると脛から膝まで潜るので、帰りもスノーシューのまま下るのがいいかな。

 休憩を終えて下山開始。往路を下るのではなく緩やかな傾斜を求めてもっと西側の斜面も考えたが、この雪質では最後の横移動が面倒そうなので素直に往路を戻ることににした。しかしあの傾斜では通常ならスノーシューのまま下るのは無謀だ。かと言ってあの雪質でつぼ足は下りでも疲れるのは必至で、ピッケルもあることだしスノーシューのまま下ることにした。こんな使い方をするからスノーシューに過負荷がかかって壊れるのだが。

 雪山は自分の足跡が残るので目印が無くても帰りに迷うことがないのが助かる。傾斜がきつくてスノーシューのまま前を向いて下るのがやばそうな場所はバックで下り、他は前を向いて歩いたが自分の往路のトレース上はかえって滑りやすいので、わざとトレースを外れて踏跡がない雪原を辿り、スノーシューが雪に潜る抵抗を利用して滑落を防止した方が歩きやすかった。登りのトレースと比較して下りのトレースの歩幅は数倍もあり、下山のスピードは登りと比較すれば2倍どころではなさそうだ。

 雪庇のなり損ないの下りで数回バックで下ったが、それ以外は急傾斜でスノーシューをギシギシ言わせながらも前を向いて下ることができた。つぼ足で踏み抜きながら下山するよりも格段に楽だったと思う。植林帯に入れば安全地帯で最後の急斜面を下って押立沢左岸に下ればゴールイン。登りでは3時間半かかったのが下りではたった40分しかかからなかった。無雪期の山ではこのようなタイムはあり得ず、雪の恩恵だ。

 まだお昼で時間は余っているが体力が余っていないので本日の行動は終了。しばし車の中で昼寝。一時増えた雲は薄くなって車の中は暑いくらいだった。外に出しておいた靴やスパッツ、スノーシューは乾いていた。

 夕方になって飯の調達へと国道に向かって車を走らせるとスノーシェッドの中を下り方向に歩く単独登山者発見。背中にはピッケルとスノーシュー。さて、どこから入ってどこに下りたのか非常に興味がある。スノーシェッドを出て除雪された駐車余地に車を突っ込んで待ち受ける。もちろん、下界まで乗せていくつもりだ。スノーシェッドから姿を表した小柄な男性は年は60くらいだろうか。浅黒く日焼けしていかにも山屋らしい姿だ。話を聞くと奉納温泉西側の曽田集落から尾根に取り付いて奉納山を踏んで、私が使った尾根を下ったそうだ。今年はかなり雪が少なくて例年より1ヶ月くらい雪解けが早い感じだという。しかし雪質は1ヶ月進んだ状態ではなくタダ雪が少ないだけで、往路の尾根はかなり藪が出ていたとのこと。下りは私はスノーシューのままだったが、男性はつぼ足で下ったとのこと。それが普通だろう。まさか同じコースを歩く人がいるとは予想だにしなかったので、他の人が歩きやすいような下りのトレースを付けなかったのがちょっと悔やまれる。

 乗せていくと誘ったが、奥さんの車が迎えにやってくるとのことで男性はそのまま車道歩きを選択した。分かれて私が車で下るとそれらしき年配女性が運転する車とすれ違った。どこに住んでいるのか聞かなかったが、たぶん地元だろう。


 まとめ。今回使った押立沢左岸尾根は、奉納山のみ登るなら最短距離で済むし標高も車で稼げるのでお得なコースだ。ただし、かなりの急傾斜であり万人にお勧めできるコースではない。一般的にはスノーシューを活用する場所ではなくアイゼンで上り下りするような地形と言えよう。北向きの尾根なので雪が締まるまで期間が必要で、本格的な残雪期に入ってからの方がいいだろう。その頃には麓は雪が消えているかもしれないが、下部は藪は少なそうに見えた。

 

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